『結果オーライ』   葵×主人公                  視点:主人公




掃除もホームルームも終わり、今朝携帯に届いていた未央先輩からのメールを思い出す。
一緒に帰りたいから、放課後に生徒会室に来て欲しいという内容。
最近は学校行事などでバタバタしていてなかなか一緒に居る時間がなかった。先輩のほうも卒業に向けての生徒会の引継ぎなどで忙しいようで、メールもろくにやり取りできていなかった。
そんな時に届いたメールに気持ちが弾んだ。久しぶりに二人でのんびりした時間を過ごしたかった。
早く生徒会室に向かおうと、急いで鞄に荷物を詰めていたところで桜葉くんにため息混じりに声を掛けられる。

「おい、日直サボって帰る気か」

一瞬、教科書を詰める手を止めて考える。日直という単語が頭をぐるぐると回って、無意識に黒板に目が行く。
黒板の片隅、日直の欄には確かに私の名前が書いてあった。

「ああっ、日直!」

思いのほか大きな声が出て、自分で驚くがそれ以上に教室に残っていたクラスメイトたちが驚いた様子でこちらを振り返る。
桜葉くんが追い討ちの様に「ぼんやり」と言ったのは聞き流して、大慌てで日直の仕事を始める。


やっとの思いで日直の仕事を終えて時計を見る。正確に時間を約束した訳ではないが、日直で遅れる時間が予定に入っていないのは間違いない。
メールをしようかとも思ったが、未央先輩は学校内での携帯電話の使用は拘束により禁止されていると言って、学校内では電源を切っているのを聞いていたので送らなかった。

鞄を持って教室を飛び出したところで、誰かと肩がぶつかって盛大に転んだ。
したたか打ち付けたお尻が痛む。今日はついていない。
振り返ると、見知らぬ男子生徒が同じくしりもちをついていた。
私と目が合って、慌てて立ち上がるとこちらに手を差し出して立たせてくれる。
聞けば委員会の話で来たのだそうで、教室には他に残っている生徒も居ないことだからと伝言を預かることになった。
鞄から紙とペンを取り出して内容を控えて別れた。

その男子を見るともなしに見送っていると、階段の踊り場の辺りで何かに驚いたような動きをした後、その何かに向かって会釈をして去って行った。
なんだろうと考える前に、踊り場から現れたのは未央先輩だった。
おそらくさっきの男子は踊り場で生徒会長に会って、驚いて挨拶したのだろう。

慌てて駆け寄ると、先輩は難しい顔をしていた。

「先輩、遅くなってごめんなさい」

第一声で頭を下げて、日直であることを忘れていたと説明する。

「ああ、大丈夫。日直の仕事は大切だ。仕方ない」

怒っているのか、生徒会の仕事で疲れているのか、向けてくれる笑顔に元気がないように感じた。
帰り道にも行事のことなど話を振るが、なんだか噛み合わない。
怒っているのか何なのか、これではのんびりどころか居た堪れない。


会話が途切れる。不自然な間が空く。
お互いの足が止まり、夕暮れに飛んでいくカラスの声以外には風の音くらいしか聞こえない。

「怒っているならハッキリそう言ってください」と言うつもりだった。

まさか先輩の顔が近づいてくるなんて。ましてや唇が重ねられるなんて思いもしなかった。
数秒か数十秒。いや、感覚的には数分か数時間そうしていたように錯覚するような、静かな時間が流れたあとに、不意に唇は離れた。

離れてからも私の中の時計が狂ったかのように、体は動かなかった。
唐突に動き出したことが分かったのは、まず心臓。うるさいくらいになっていた。
そうして喧しく働く心臓から送られた血液は、迷うことなく首や顔に流れてきて、キンキンと耳鳴りがした。

先輩が少し目を丸くして私の顔を見ていた。
それから何か満足したような顔になって「おでんを買って一緒に食べよう。たまには校則を破って、高校生らしい振る舞いをするのもいいことだと思う」なんて、真面目に言う。

「放課後になってもキミが来なかったので、心配してもやもやして、キミの姿を見たら治ると思って迎えに行ったのだが、教室の前でキミが他の男子と話している姿を見たらもやもやが膨らんでしまって困っていたのだ。つい先ほどまでどうしたものか考えていたのだが、以前キミと唇を重ねたときに幸せな気持ちになったのを思い出したのだ」

つらつらとご機嫌で語られる説明の半分も頭に入らなかった。
心臓はうるさくて、頬が熱くて、落ち着かない。
けれども胸がほんわかと暖かいのは、幸せだから。分かったのはそれだけ。
それでじゅうぶん。



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